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東京高等裁判所 昭和49年(ネ)2825号 判決

主文

本件各控訴を棄却する。

控訴費用は全部控訴人兼補助参加人長谷川なかの負担とする。

事実

控訴人兼補助参加人長谷川なか(以下控訴人兼補助参加人という。)代理人は、被控訴人の協議離婚無効確認請求につき、控訴人東京高等検察庁検事長(以下控訴人という。)を補助するため参加の上控訴を申立て、「原判決を取消す。被控訴人の請求を棄却する。訴訟費用は第一、二審とも被控訴人の負担とする。」との判決を求め、被控訴人の婚姻取消請求につき、「原判決を取消す。被控訴人の請求を棄却する。訴訟費用は第一、二審とも被控訴人の負担とする。」との判決を求めた。

控訴人は当審口頭弁論期日に出頭しない。

被控訴代理人は、各控訴につきそれぞれ控訴棄却の判決を求めた。

当事者双方の事実上法律上の主張及び証拠の関係は、控訴人兼補助参加人代理人において、「控訴人兼補助参加人と訴外亡長谷川誠との婚姻は、被控訴人と右長谷川誠との協議離婚が審判又は判決によつて無効であると宣告されて始めて重婚となるのであるから、被控訴人は右審判又は判決が確定しなければ重婚を理由として右婚姻の取消を求めることはできないのであり、重婚であることが確定しないうちに重婚を理由として婚姻の取消を認容した原判決は違法であつて取消されるべきである。」と主張し、当審証人長谷川健一の証言を援用し、被控訴代理人において右主張は争うと述べたほかは、原判決事実摘示のとおりであるからこれを引用する。

理由

公務員が職務上作成した戸籍謄本であつて真正に成立したものと認められる甲第一ないし第三号証によれば、被控訴人と訴外亡長谷川誠とは昭和五年一月二四日婚姻の届出をし、昭和四二年一月三一日両名の協議離婚の届出がなされていること、右長谷川誠と控訴人兼補助参加人は昭和四二年二月二一日婚姻の届出をしたこと、被控訴人と右長谷川誠との間に昭和五年一月一六日長男健一が出生し、右長谷川誠は昭和四六年七月九日死亡したことが認められる。

被控訴人は、右長谷川誠と被控訴人との協議離婚は被控訴人の意思に基づかない無効のものであり、したがつて右長谷川誠と控訴人兼補助参加人との婚姻は重婚であつて取消されるべきであると主張する。

水戸地方法務局土浦支局長が離婚届の記載内容を証明した文書であつて真正に成立したものと認められる甲第四号証、裁判所書記官作成の取下通知書であつて真正に成立したものと認められる同第五号証の二、原審及び当審証人長谷川健一、原審証人島田千恵の各証言、原審における被控訴人及び控訴人長谷川なか(一部)各本人尋問の結果を総合すると、被控訴人は、結婚後長谷川誠から飲酒の上乱暴されるというような状態が永年つづいたこと等から、昭和二七年頃家出をし、昭和三六、七年頃まで東京で訴外川原某と同棲した後同人と別れ、昭和四一年三月頃から昭和四七年頃までは土浦市○○○でアパート経営をしていたこと、被控訴人は、右家出以来長谷川誠方へは全く帰らなかつたこと、一方長谷川誠は昭和二八年六月挙式の上控訴人兼補助参加人と内縁関係に入り、両名は長谷川誠の死亡に至るまで同居していたこと、長谷川誠は昭和四一年水戸家庭裁判所土浦支部に被控訴人を相手方として離婚調停を申立てたが、被控訴人が離婚を拒否して出頭せず、同年一一月二五日右調停を取下げたこと、被控訴人にはその後も離婚の意思がなかつたこと、右調停取下後長谷川誠は離婚届用紙を持参して前記長谷川健一方に赴むき、同人に対し母である被控訴人の氏名その他所要事項を記入して被控訴人の名下に押印することを強く要求し、長谷川健一はかねてから父である長谷川誠に恐怖心を抱いていたこともあつて、被控訴人の意思によるものでないことを知りながら、右用紙に被控訴人の氏名その他の記入をして被控訴人名下に自己の所持していた長谷川の印を押印した上、長谷川誠に右用紙を交付したこと、被控訴人と長谷川誠との離婚の届出は右用紙によつてなされたこと、以上の事実を認めることができる。原審証人宮崎信夫の証言及び原審における控訴人長谷川なか本人尋問の結果中右認定と牴触する部分は、前掲証拠と対比しにわかに採用しがたい。右認定の事実によれば、被控訴人と長谷川誠との協議離婚は、その届出当時両名の間の夫婦関係が定全に破綻していたとはいえ、なお被控訴人の意思に基づかない届出によつてなされた無効のものといわざるをえない。そうすると、長谷川誠と控訴人兼補助参加人との婚姻は、民法第七三二条の重婚禁止の規定に違反するものとして、同法第七四三条、第七四四条第二項の規定による取消を免れない。

なお控訴人兼補助参加人は、右協議離婚の無効が審判又は判決によつて確定した後でなければ、重婚を理由として右婚姻の取消を求めることはできないと主張するが、論理的には前婚の協議離婚の無効が後婚の重婚を理由とする取消の先決問題であることが明らかであるが、右協議離婚の無効が確定すれば必然的に後婚が重婚であることも確定する関係にあるのであつて、協議離婚無効確認の訴とこれを前提とし重婚を理由とする婚姻取消の訴とを併合し、同時に審理判決することは許されるというべきであり、右主張は採用しがたい。

そうすると、被控訴人の本訴各請求はいずれも理由があり、これを認容した原判決は相当であつて、本件各控訴はいずれも失当として棄却するほかない。

よつて、控訴費用の負担につき民事訴訟法第九五条、第八九条、第九三条、第九四条を適用して、主文のとおり判決する。

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